S&P500への投資が人気を集める一方で、警戒感を示す声が増えている。
「これまで好調だったS&P500は今後10年は年率2%〜-2%の低成長となる恐れが強い」
ソーシャルメディアを賑わすそんな主張は過去データを元に行われている。
しかしながら、過去データを参照して「2%〜-2%になる」と結論づけるのは間違いだ。現在のPERが高すぎるとしてもS&P500を保有してはいけない理由にはなり得ない。
▼この記事執筆時点ではPERは31.66の高水準にある。

このブログの筆者RBは、理屈としてハワード・マークス氏ほど単純には考えていない。今はAIによる産業革命が起きている真っ只中。過去から未来が予測できないと考える論拠として理由を3つ挙げよう。
①PERだけで未来を断定するのは危険である
株式の将来のリターンを決める要素は、現在のPERだけではない。今後の企業利益の成長、金利、インフレ、指数の構成銘柄、企業の競争力、世界経済の成長、投資家心理など、様々な要素が絡み合っている。
特に重要なのは、PERの分母である利益だ。PERは、株価を利益で割った数字である。株価が高くても利益がそれ以上に伸びればPERは低下する。逆に、株価が横ばいでも、利益が落ちればPERは上がる。
つまり、現在のS&P500を考えるうえでは、株価が高いかどうかだけでなく、今後の企業の利益がどれだけ伸びるかを見なければならない。
この点で、現在のS&P500には過去とは違う要素が含まれている。単純に過去と同じ未来になるとは限らない。
②AIによる利益成長は無視できない
また現在のS&P500を語るうえで、AI(人工知能)の影響は避けて通れないはずだ。
重要な事実として、Microsoft、Alphabet、Amazon、Meta、NVIDIA、Teslaなど、S&P500の上昇を牽引している巨大テック企業は、AIの恩恵を大きく受ける立場にある。クラウド、半導体、広告、ソフトウェア、自動運転、データセンターなど、AIは幅広い分野に影響を与えている。
もちろん、AIという言葉だけで何でも正当化するのは危険である。
しかし、現在のAI相場を単なる期待先行のバブルと片付けるのも雑である。なぜなら、現在の主役企業は、ドットコムバブル期の赤字企業とは違い、すでに実態として巨大な利益とキャッシュフローを生み出しているからだ。
ロイターは「2026年5月時点でS&P500企業の四半期利益が前年同期比28.2%増となる見通しであり、2021年以来の高い伸びになる可能性がある」と報じている。また、2026年通年の利益成長率も22.6%と予想されている。AI関連投資、とくに大手テック企業によるデータセンター投資が利益成長の重要な要因になっている。
さらにFactSetも、2026年のS&P500企業の利益成長率を21.3%と予想している。
これは重要なポイントである。
S&P500のPERが高いことは事実だが、同時に利益も大きく伸びている。今の株価だけを見れば高く見えても、今後の利益成長が続けば、割高感は自然に薄まる可能性がある。
③今のS&P500は昔のS&P500と同じではない
過去のPERを分析して将来リターンを予測する手法はよく用いられる分析だ。ただし、S&P500において過去と現在を全く同じ性質のものとして扱うのは危険である。なぜなら、指数の中身が変わっているからだ。
昔のS&P500が製造業、金融、エネルギー、一般消費財などの比率が大きかったのに対し、現在のS&P500は、巨大テック企業の存在感が非常に大きい。これらの企業は、利益率が高く、グローバルに稼ぎ、ネットワーク効果やブランド力、データ、ソフトウェア、クラウド基盤などの競争優位を持っている。
高い利益率と強い競争力を持つ企業が指数の中心になっているなら、過去平均より高いPERが正当化される余地はある。
もちろん、これは高PERを無条件に肯定する話ではない。高いPERには高い将来性への期待が含まれているため、その期待が裏切られれば、株価はあっという間に大きく下落する。特に、AI関連企業に対する期待が過剰と判明すれば、調整は避けられない。
このことを考慮に入れてもなお、S&P500全体のPERだけを見て「過去と同じように今後10年のリターンが低くなる」と断定するのは単純化しすぎである。
ただし、ハワード・マークス氏の警告は無視すべきではない
ここで注意したいのは、ハワード・マークス氏の警告を軽く見てはいけないということだ。
マークス氏は、AIについてもバブルの可能性があると論じている。ハワード・マークス氏は、AIバブルには2つの側面があると述べている。1つはAI企業や関連企業の行動におけるバブル、もう1つは投資家がAI関連企業に対してどのように振る舞っているかというバブルである。
これは非常に重要な視点である。AIという技術が本物であることと、AI関連株が割安であることは別問題だ。
これまで、インターネットは本物だった。スマートフォンも本物だった。クラウドも本物だった。しかし、どれだけ本物の技術であっても、投資家が高すぎる価格を払えば、その後のリターンは低くなる。
したがって「将来、AIで成長するからPERが高くても気にしなくていい」という極端な考え方は危険である。むしろ正しくは、次のように考えるべきだろう。
「AIは企業利益を押し上げる可能性がある。他方で、その期待がすでに株価に織り込まれすぎていれば、投資リターンは低くなる可能性がある」
つまり、AIは強気材料であると同時に、過熱材料でもあるということだ。
それでもS&P500を売る理由にはならない
では百歩譲って、S&P500のPERが高く、AI相場にも過熱感があるなら、S&P500を売るべきなのだろうか?
RBは長期投資家にとってはそうではないと考えている。すでにS&P500を持っているなら保持すべきだ。理由はシンプルである。
高PERを見て売ることはできても、いつ買い戻すかを当てるのは非常に難しいからだ。
PERが高くなった相場は、意外にもその後すぐに暴落するとは限らないのである。高いPERのまま何年も横ばいで推移したり、むしろ上がり続けることもある。逆に、暴落したとしても、うまいタイミングで買い戻せるとは限らない。
投資で難しいのは、売ることではない。売った後に、いつ戻るかを予測することである。
「今は高PERで暴落リスクが高いからいったん売る。暴落したタイミングで買い直す」
この投資方針は合理的に思えるのだが、実際には実行するのが非常に難しい。暴落時にはもっと下がるように見えてどこが底か分からないからだ。ニュースは悲観一色になり、ソーシャルメディアでは終わりだという声で溢れる。その状況においてベストなタイミングを見抜いて買い戻せる人は少ない。
だからこそ、長期投資家にとって重要なのは、PERを見て完璧な売買タイミングを当てることではない。大事なのは高PERにおいても暴落時においても売らず、より長い期間で保持し、企業利益の成長を取りにいくことである。
高PERは警戒材料だが、撤退理由ではない
現在のS&P500は割安ではない。この点はRBも認める。
予想PERは過去平均より高く、AI関連企業への期待も大きい。将来リターンが過去平均より低くなる可能性は十分にある。今後10年のS&P500も直近10年のような高リターンを再現できると考えるのは楽観的すぎるかもしれない。
しかし、だからといって、S&P500を長期保有する合理性が失われるわけではない。
S&P500は、米国を代表する企業群に分散投資する仕組みである。米国企業は、世界中から売上と利益を得ている。さらに、現在の指数上位企業は、AI、クラウド、半導体、広告、ソフトウェア、プラットフォームといった成長分野で強い競争力を持っている。
高PERは将来リターンを押し下げる要因である。一方で、AIによる利益成長、巨大テック企業の収益力、米国企業の資本効率、世界中の資金が米国市場に集まりやすい構造は、将来リターンを押し上げる要因である。
どちらが勝つかは誰にも分からない。だからこそ、個人投資家がやるべきことは、未来を当てにいくことではない。
自分のリスク許容度に合わせて、S&P500を長期で保有し続ける。高値が気になるなら一括投資ではなく積立投資にする。暴落しても売らない前提で、生活防衛資金を確保しておく。
これが現実的な対応である。
ノンギャンブリング戦略としての結論
ノンギャンブリング戦略の視点で考えるなら、重要なのは当たるかもしれないし当たらないかもしれない予想に賭けないことだ。
- S&P500のPERが高いから今後10年のリターンは低くなる
- AI導入による利益成長によって高いリターンになる
どちらのシナリオもあり得るだろう。ここで株式投資家は、どちらか一方に大きく賭ける必要はないということに留意されたい。
高PERを警戒しながらも、市場から完全に降りない。AI相場に期待しながらも、過信しない。短期の予想ではなく、長期の企業利益成長に乗る。これが、S&P500投資におけるノンギャンブリング戦略である。
「PERが高い」という警告には耳を傾ける価値がある。しかし、それでもその警告を理由にS&P500を全て売却してしまう必要はない。
以上をまとめておこう。現在のS&P500は「割高だから長期投資をやめる」という相場ではない。高PERへの警戒を持ちながら、長期・分散・継続を守る。個人投資家にとっては、それが最も堅実な選択だろう。



