資産額を公言して良いことは、ほぼない
廃止された高額納税者番付
日本にはかつて高額納税者公示制度があり、数千万~数億円単位の高額納税者の名前が公開されていた。マスコミでは「長者番付」や「高額納税者番付」と呼ばれ、世間の関心を集めていた制度である。
1950年に運用が始まり、当初は収入額が、1983年度からは納税額が公示された。名前だけでなく住所まで明記されていたため、当事者の多くが、悪質な勧誘や寄付の要請、詐欺被害、窃盗などに悩まされたとされる。
その後、公示の実益が乏しいこと、そして2005年に個人情報保護法が制定されたことなどを背景に、公開は2006年(2005年度分)から廃止された。
なぜ資産額を言ってはいけないのか
本稿では、あなたが富裕層になったときに資産額を吹聴すべきではない理由を思考実験を通して説明したい。これから説明することは重要度が高いことであるにもかかわらず、多くの人が理解していない。学校の授業で学ばないし、誰も教えてくれないからだ。
結論はシンプルだ。具体的な金額を明かすほど、望まぬ注目を集める確率が高まるからである。
思考実験:ターゲットはどのように選ばれるか
視点を変えて考えてみてほしい
仮に、あなたが強盗として「高額な資産を持つ家」を狙うとしたら、最初に何を考えるだろうか。
最も重要なのは成功確率を高めるための事前情報である。時間やリスクをかける以上、見込みが低い対象は避け、確度の高い候補を優先したいはずだ。
そこで注目すべきが公開された情報である。メディア露出、派手な発言、具体的な年収、資産額、SNSでの自慢——こうした断片は候補を絞り込む材料になり得る。
まず計画段階で最も重要なのは家ごとの資産額を把握することだ。犯行に入ったのに肝心のお金がなかったというオチは絶対に避けなければならない。
最も楽なのは現金があることで、転売の手間がかかるものの確実に売れる宝石、金、時計などの金目のものも良いだろう。銀行口座に預金がある場合でも、暗証番号を聞き出して、闇バイトで雇ったいわゆる出し子に引き出させることはできる。
調査した結果、ターゲットごとの資産額は以下のようにまとめられた。
- A家:12億円
- B家:推定2〜10億円
- C家:4億円
- D家:不明
- E家:不明
- F家:不明
- G家:不明
- H家:不明
- I家:不明
大半は資産額不明となってしまったが、有力候補が3軒できたので充分だろう。B家はもしかしたらC家よりも劣るかもしれないが、A家よりも当たりな可能性がある。また、D〜I家については家の大きさ順に並べてある。
しかし確実さを重視するならA家が最も妥当だろう。検討した結果、優先順位づけしたターゲットリストは以下の通りとなった。
- A家:12億円、
- B家:推定2〜10億円
- C家:4億円
まずはA家に入ってうまくいったら次にB家を狙う。C家を狙った後は改めて資産額をリサーチし直し、再びターゲットを決める。
新情報が入ってきてランキングが変動
ところがここで新たな情報が手に入った。E家の資産額が8億円と判明したのだ。発端は本人が住まいを紹介するテレビ番組に出演した際に、資産額を自慢げに暴露したこと。本人はカメラを向けられている状況で良い気になってしまい、普段なら言わないこともつい喋ってしまったのだ。
Eさんは「誰かに迷惑をかけるわけではないから自分がいいなら問題はない」と、このように思っているのだろうが、強盗はこの情報を見逃さなかった。
こうして優先順位は次のように変わったのだ。
- A家:12億円、
- E家:8億円、
- B家:推定2〜10億円
- C家:4億円
あとは時間の問題。上から順に実行していくのみだ。
問題は具体的な金額を言ってしまったこと
もし、ぼかした表現だったら結果は違っていた
もうおわかりだろう。当初、資産額不明だったE家は具体的な金額を公言してしまったことで強盗のターゲットリストに入ってしまった。ここでは仮に8億円としたが、金額はさほど重要ではなく、3億円でもターゲットリストに入るということを理解してほしい。
安全でいるための最も単純な戦略は、“不明”の集団に埋もれることである。
住まいや職業、暮らしぶりから「裕福そうだ」と推測されることは避けられないかもしれないが、具体的な数字がなければ優先順位は上がりにくい。
テレビの取材が来たとき、Eさんが強盗の事情を理解して資産額を言わないようにしていれば……。あるいは言ってしまったとしても放送では隠してもらうようお願いしていたら……。
本稿では説明を簡単にするために「不明」を6軒のみとしたが、実際には高級住宅街にある家だけでもすべてターゲットになり得るのだから「不明」が無数に存在することになる。
結論:雰囲気は出しても金額は出すな
どれだけ自慢したくなろうとも、どれだけしつこく聞かれようとも資産の具体的な数字は絶対に言ってはいけない。あなたの知らないところでターゲットリストに入ってしまうのだから。
※本稿は思考実験として一般論を述べたものであり、特定の行為や方法を推奨・示唆するものではない



