2007年、RBは大学3年生のときにFX(外国為替証拠金取引)に手を出して5万円を4,000円にしたことがある。経営学部に所属しておきながらも真面目に勉強していなかったため、何の専門知識もなく、そもそもFXを始めたことが間違いだった。

このときRBはまだ知らなかった。自分が選んだのは「確率を積み上げる投資」ではなく、「勝者と敗者が入れ替わるゲーム」だったということを。

FXと株で迷った

BNFがテレビ出演で一躍有名に

「今の若者は物欲がなくて全然お金使わないんだね」

その日、ゼミ合宿で教授が口にしたのは資産210億円のB・N・F(以下BNFと記す)の質素な暮らしについてだった。前日にテレビ番組でジェイコム株誤発注騒動で大きく儲けた個人トレーダーとしてBNFが取り上げられ、教授もその番組を観たようだった。同じゼミ生の友人も観たと言っていた。

BNFは4億円の高層マンションを購入したものの、普段の生活はまったく贅沢をしておらず、昼ご飯に広いリビングでひっそりとカップ麺を食べる様子が話題になった。

久米宏が何を尋ねても暖簾に腕押し。

「お車は持ってらっしゃいます?」

「自転車はありますけど車は持ってないです」

「お酒は飲まれるんですか?」

「全然飲まないです」

「海外旅行は?」

「海外行ったことないです」

この番組より前からRBはBNFのことを知っており、FXを始めていた。当時、平凡な大学生として月6万円の生活費(家賃は別)で暮らしていたRBは160万円から株式投資を始めたBNFという存在を知り、俄然投資に興味が湧いていたのだ。

FXを始める

当時はFXブームであり、少額からでもレバレッジを大きくかけて始められるのが特徴だった。株式投資の世界ではBNF以外にもCISという人物も有名で、そんなスタープレーヤーに憧れて口座を開設する人も多いようだった。

RBもそのうちの一人で、株にするかFXにするか迷った。まずはインターネットで調べ、結局、元手が少なくてもレバレッジがかけられて大きく儲けられる点と、なんとなくかっこいいからという雰囲気でFXを選んだ。

口座開設を待つ間、Amazonで書籍を買って勉強する。何冊か読んで理論はばっちりという状態になった。

投じるお金は5万円のみ。貯金はもっとあったが、失敗して一文無しになる恐れもあったため、少額の実験と決めていた。

主にドル円を取引し、ユーロ円などにも手を出した。取引の世界はスリリングで雇用統計や小売売上高の発表などのイベントごとに相場が大きく動く。

5万円は数カ月で8万数千円に増えた。しかし取引しないときは暇なものでつい刺激を求めてしまう。ここで言う刺激とは儲けるチャンスのことだ。値動きが激しく、手を出すのは危険と言われるポン円も取引し、攻めに攻めた。

重要なのは手法だが、実は自分の中で明確に決めたルールはなく、そのときそのときで上がるか下がるかを予想して取引していた。テクニカル分析としては、チャートに移動平均線やボリンジャーバンド、RSI、MACDなどを表示して参考にすることもあった。

退場の通知だ

携帯電話でも取引できたため、大学の講義では一番後ろの席に座り、熱心に売買を繰り返した。通常なら無駄になるだけの何かの待ち時間でも取引してお金を稼ぐのは最高に気分が良かった。

ところがRBには損切りを躊躇してしまうという弱点があった。含み損を抱えると放置して回復するのを願うのみ。損切りはしたほうがいいとはわかっていてもこのやり方で含み益に転じて助かったことが何度もあった。

取引しているときにドル円の動きは予測がつくが、それ以外はさっぱりわからないことに気づいた。ドル円は値動きが安定しており、動く幅がある程度決まっていたのだ。下がり過ぎたら移動平均線を目安に元に戻る、上がり過ぎても元に戻る、という動きを繰り返していた。自分が日本に住んでいるからニュースも理解しやすく、相場の動きを理解することができた。

そうこうしているうちに、よく理解していないユーロドルとポン円で大きな含み損を抱えてしまい、塩漬け状態となった。このまま含み損が増え続けると強制決済となり、退場となる。

「明日あたり、ついに危ない……」と思いながら寝た日、目覚めた瞬間に携帯電話の新着メールを見て悟った。強制決済がなされたのだ。

こうして5万円は4,000円になり「投資は二度とやらない」と誓ったのであった。

FXはなぜ勝ち続けるのが難しいのか

問題はFXを選んだことだ

それから12年後の2019年、RBは株式投資を始めるために証券口座を開設し、億り人になった。FXでは失敗したのに、なぜ株式投資では成功したのか。もちろんその間にMBAに行き、経営学について応用までしっかり学んだことも関係しているが、最大の理由は「ゼロサムゲーム」と「プラスサムゲーム」という概念で説明することができる。

FXがゼロサムゲームで、株式投資はプラスサムゲームだ。この2つは一見同じように思えても、その性質は正反対なのだ。そこにこそ成功のカギがある。

この考え方の土台にあるのが、投資を「当て物」ではなく「確率のゲーム」として捉えるノンギャンブリング戦略だ。

この言葉はなんとなくで使われることが多く、仕組みまで理解している人は少ない。本稿では、感情論や投資スタイルの優劣ではなく、市場の構造そのものから、この違いを説明する。

ゼロサムゲームとプラスサムゲームとは何か

まずは用語の整理から始めよう。

ゼロサムゲーム(zero-sum game)とは、参加者全員の損益の合計(sum)がゼロ(zero)になるゲームである。誰かが10万円儲ければ、どこかで誰かが10万円損をしている。お金は増えない。移動するだけだ。

プラスサムゲーム(plus-sum game)は参加者全員の損益の合計(sum)がプラス(plus)になるゲームである。全体として価値が生まれ、分配される。お金そのものが増える仕組みを内包している。

FX市場の構造:お金は「移動」する

FXは通貨と通貨を交換する市場だ。円を売ってドルを買う人がいれば、その裏側にはドルを売って円を買う人がいる。

この時点で、構造はこうなる。円高になると儲かる人がいる。同時に、円高で損をする人がいる。常に勝者と敗者がペアで存在する。

市場全体で見れば、誰かの利益は、誰かの損失の裏返しだ。

さらにFXには取引手数料のほか、スプレッド、金利調整分(スワップ)といったコストも存在する。これは参加者全体から常に差し引かれる“マイナス”である。

つまり実際の構造は、ゼロサムどころかマイナスサムに近い。市場参加者同士でお金を取り合いながら、その外側でコストが削られていく仕組みだ。

株式市場の構造:価値が「生まれる」

一方、株式投資は構造がまったく違う。株を買うということは、企業の一部を所有することを意味する。

企業は、商品やサービスを提供し、利益を生んで事業を拡大する。

この活動そのものが、新しい価値を生む。価値が増えると何が起きるか?企業の価値が高まれば、株価が上がり、配当が支払われることもあり、再投資でさらに成長する。結果として、株主全体の取り分が増える。

誰かが儲かったから、誰かが必ず損をしなければならない、という構造ではない。

これがプラスサムと呼ばれる理由だ。

FXは右肩上がりが継続されることはない

株式投資の場合、銘柄選びさえ間違えなければ、あるいは国選びを間違えずにインデックスファンドを買えば株価が右肩上がりに上昇していく可能性が高いわけだから、市場参加者の多くが得することになる。

▼Apple社(2000〜2026年)のチャート

チャート提供:TradingView

▼S&P500(1992年〜2026年)のチャート

1992年から2026年までのS&P500指数の長期チャート(週足)
チャート提供:TradingView

これがFXだとドル円の場合、大体75円〜160円ぐらいで上がったり下がったりしているだけだ。

▼ドル円(1988〜2026年)のチャート

チャート提供:TradingView

相場では右肩上がりの波に乗ることが大事なのだ。

思考実験で比べてみよう

FXの世界

10人が10万ずつ持って市場に参加し、合計100万円が持ち込まれたとする。取引終了後はこうなった。

  • 誰かは12万円
  • 誰かは8万円

だが、参加者全員の資産を合計すれば合計は100万円のままだ。そこから手数料分だけ、さらに減る。

株式の世界

10人が10万ずつ持って市場に参加し、成長企業の株を買ったとする。企業が事業を拡大し、利益を積み上げた結果、株価が上がり、配当が出て企業価値が増えた。

  • 誰かは12万円
  • 誰かは11万円

大半の人が得をし、合計が120万円になることがあり得る。

手数料は無視できるほどだ。ここではお金が市場の外から生まれているのではなく、企業活動を通じて、株式の価値が増えているというところがポイントだ。

なぜこの違いが重要なのか

この構造の違いは、投資家の行動そのものを変える。

ゼロサム市場の論理

  • 他人より早く
  • 他人より正確に
  • 他人の裏をかく

競争に勝ち続けることが前提になる。

プラスサム市場の論理

  • 良い企業を選び
  • 時間を味方につけ
  • 成長に参加する

価値の増加の波に乗ることが前提になる。では、どの企業や市場を選べば「価値の増加の波」に参加できるのか。その基準については、次の記事で具体的に整理している。

参考:長期投資で失敗しにくい企業選びの基準

あなたはどちらを選ぶか

もちろん中にはFXで大儲けしたという人もいるわけで「FXが絶対に儲からない」と言い切るつもりはない。ここで重要なのは、FXが悪くて、株式が良い、という話ではない。ゲームの性質が違うということだ。

  • FX: 競争のゲーム
  • 株式投資:参加のゲーム

この「参加する」という考え方は、ウォーレン・バフェットの投資哲学とはなにかとも強く重なる。

どちらを選ぶかは、あなたがどの構造の中で戦いたいかの問題である。

【市場の構造比較】

FX(ゼロサム)

  • 利益と損失が参加者間で入れ替わる
  • 市場全体の合計は増えない
  • 手数料分だけマイナスになる

株式投資(プラスサム)

  • 企業の成長で価値が生まれる
  • 市場全体の合計が増える可能性がある
  • 配当と再投資で価値が積み上がる

RBは大学生のときこのことを理解しないまま、安易にFXを選んだ。そしてその後、きちんとアカデミックな世界で理論を学び、ようやく自分が何をしたかを理解したのだった。「投資は二度とやらない」という決意は、FXと株式投資の違いをよく理解していないからこそ出てきたものだったのだ。

もしあのとき株式投資を選んでいたら人生はまた違うものになっていただろうか。それとも…。いずれにせよ5万円という少額に抑えていたことはよかった。勉強代と思えば安いものだ。

結論:市場の構造を知ることが最大のリスク管理

多くの人はチャートの見方や取引テクニックを学ぶ前に、自分が参加している市場の性質を知らない。

しかし、お金が移動する市場なのか、お金が増える市場なのかという違いを理解するだけで、投資との向き合い方は大きく変わる。

投資とは、銘柄を選ぶ前に「どのゲームに参加するか」を選ぶ行為でもある。

※本稿は、金融商品の優劣や特定の投資行動を推奨するものではありません。市場構造の一般的な違いを説明するための解説です。

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