大ヒットしたブルー・オーシャン戦略(W・チャン・キムとレネ・モボルニュ)をマイケル・ポーター教授はどう捉えているのか?そもそも5フォース分析を学んだことのある人ならブルー・オーシャン戦略は業界の構造分析にかなり似通っており、目新しい発見はないように思える。

事実、RBも大学院生時代に書籍を読みはしたものの「なぜこんな本が売れているのか?」という感想になったのを覚えている。経営戦略の分野で革命を起こしたマイケル・ポーター教授の意見が気になるところだ。

ポーターはブルー・オーシャン戦略を批判したのか

調べたところ、批判はポーター自身がしているわけではなく、ポーターの戦略論を解説した書籍1などで展開されていることがわかった。

その内容は「ブルー・オーシャン戦略の主張(競争を無関係にする、差別化と低コストの同時追求)をポーターの戦略論の定義に当てはめると言い方に誤解を生む部分がある」というものだ。

関連動画。ブルー・オーシャン戦略と5フォース分析について両者の違いが整理されている。

以下では、批判として読み取れるポイントを噛み砕いて整理してみた。

(1)「競争を無関係にする」は言い過ぎである

ブルー・オーシャン側は、価値革新(バリューイノベーション)によって競争を無関係にし、未開拓市場を作るべきだというメッセージを前面に置く。実際、公式サイトでも価値革新を「差別化と低コストの同時追求」と定義し、その結果として飛躍を生むと説明している。 

一方でポーターは「戦略家の仕事は競争を理解し対処すること」と述べ、競争を既存のライバル同士の争いに限定してしまう誤りを指摘する。競争は顧客・供給者・新規参入・代替品まで広がるというのが5フォース分析の骨格である。 

ここから自然に出てくる反論はこうだ。

  • 新市場を作っても、そこで成功すれば新たな参入者が来てしまう
  • 顧客からすれば他の選択肢が現れ、顧客の交渉力が強まり、利益は削られる
  • したがって競争は消えるのではなく形を変えるだけだ

つまり、ブルー・オーシャンは新たに事業を始める際の「入口の作り方」としては有効でも、持続性の設計を抜きに競争は無関係になると言い切ると危ういというのがポーター支持者の論理になる。

(2)差別化と低コストの同時追求はトレードオフを軽く見せやすい

ブルー・オーシャンの価値革新は、差別化と低コストの同時追求を掲げる。 

これ自体は不可能ではない。だがポーターは、戦略の核心を「選択」と「トレードオフ」という具合に「活動の整合(fit)」に置く。戦略はオペレーショナル・エクセレンス(同じことをうまくやること)とは違い、独自のポジションを作り、何をやらないかを決め、活動を一体として設計することだと論じる。 

ここで起きるズレは次の通りだ。

  • 同時追求という言葉は、何でもやれる幻想を生む
  • 何を捨てたのかが曖昧になると、活動システムがぼやける
  • 中途半端な戦略は模倣に弱く、すぐレッド・オーシャンになる

ポーター流では両取りではなく「両取りに見えても実際には何を削って、どの活動を整合させたのか」を明確にせよ、となる。ここがブルー・オーシャンのキャッチーさが生む落とし穴でもある。

(3)ポーターはレッド・オーシャンで消耗戦しろと言っているわけではない

ブルー・オーシャンはしばしば、従来の戦略論を過当競争に閉じたものとして描きがちだ。しかしポーターの戦略指針は、そもそも「違いを作れ」「独自の活動の組み合わせを選べ」という方向にある。 

5フォース分析の使い方も「競争を避けろ」ではなく「業界構造を理解して、より利益が出る位置を取れ」という方針だ。 

したがって、ポーター側から見ると次の反論が成立する。

  • 自分は競争礼賛ではない
  • 同質化こそが問題で、戦略は差異化の設計だ
  • ポーターをレッド・オーシャンの代弁者として単純化すると誤解が生じる

では両者はどう使い分けるべきか

実務的には5フォース分析とブルー・オーシャン戦略のどちらかを選ぼうとするのではなく、補完的なものとして2つとも使いこなすといいだろう。

  • ブルー・オーシャン:新しい価値尺度を生み出す、発想・設計のツール (入口)
  • ポーター:利益が残る構造か、模倣に耐えるか、活動が整合しているかを点検するツール(持続性) 

仮にブルー・オーシャンで市場を創ることができても、周囲の5フォースが強ければその後、利益は奪われる。逆に周囲の5フォースが弱い有利な業界構造を見つけても、価値提案が平凡なら成長は鈍る。

起業家や新規事業担当者は以下のように未来を考える必要がある。

  • そのブルー・オーシャンは、新規参入・代替品の脅威などでどれくらいの速度でレッド・オーシャンになるか?
  • レッド・オーシャンになったときに残る防波堤は何か?例えば、ブランド力、規模の経済、ネットワーク効果、活動のfit、トレードオフなど

まとめ

ポーターがブルー・オーシャンを直接名指しで叩いた、というよりも、ポーターの戦略論から見たときにブルー・オーシャンの言い回しが誤解を誘う、という形で批判点が整理されている。

どうしても競争は避けられないものだ。両取りを語るならトレードオフと活動の整合性を説明すべきだ。レッド・オーシャンで消耗戦をしろと言っているのではなく、持続的な差異化を設計せよ――これがポーター側の骨格である。 

  1. Joan MagrettaのUnderstanding Michael Porter ↩︎

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