RBは「株の街」に迷い込んだ。
入口は二つあった。
片方はネオンが眩しい「トレード通り」。もう片方は静かな「オーナー通り」だ。
トレード通りでは、巨大な電光掲示板がピカピカと数字を吐き出している。
「暴騰!」「急落!」「テンバガー候補!」
人々はスマホを振り回し、歓声と悲鳴で空気を揺らしていた。
RBも並んで叫んでみた。
「次は上がる!」
すると背後から、小さな声がした。
「はい、参加料いただきますね」
振り向くと、親指サイズの妖精が肩に乗っていた。
蝶の羽、笑顔、そしてレシートみたいな尻尾。
「参加料?」
「手数料です。売っても買っても、ちょっとずつ」
妖精はRBのポケットから、コインを一枚つまんで食べた。
カリッ、という音がした。なぜか少し痛い気がする。
RBは眉をひそめた。
「勝てばいいんだ。勝てば手数料なんて誤差だろ」
妖精は楽しそうに言った。
「その意気です! じゃ、次の売買もいきましょう!」
RBは一日中、上がった下がったに振り回された。
勝ったり負けたりした。
そのたびに妖精はコインを食べた。
勝ったときは「おめでとうございます、成功者の税です」
負けたときは「お疲れさまです、授業料です」
夕方。RBの口は乾き、目は赤い。
損益はトントンだったのに、財布だけが軽い。
「おかしいな……」
妖精はにこにこして言った。
「おかしくないです。ここは当てもの通りですから。当たっても外れても私のごはんは発生します」
RBはふと、もう一方の通りを思い出した。
静かな、オーナー通り。
オーナー通りは畑みたいだった。畝(うね)ごとに看板が立っている。
- パン屋:毎年少しずつ配当
- 電力:地味に増配
- ソフトウェア:利益成長が速い
- インデックス畑:いろんな作物の寄せ植え
人々の感情は安定している。
土をならし、水をやり、収穫を待っていた。
RBが近づくと、畑の番人が言った。
「ここは当てなくていい通りだよ」
「収穫は、作物の成長と分け前で決まる」
RBは半信半疑で、インデックス畑の前に立った。
土には小さな芽がたくさん出ていて、ゆっくり伸びていた。
「テンバガーはある?」とRBが聞くと、番人は笑った。
「たまに混ざる。でも探すのは大変だ」
「ここは外れくじを減らす畑なんだよ」
RBはホッとして、じょうろを持った。
その瞬間、例の妖精がふわっと飛んできた。
「こちらでも、いただきますね!」
妖精は収穫カゴに手を伸ばした。
だが番人が、妖精の尻尾をつまんで止めた。
「ここは低コスト区画だ。君が食べられるのはひと口だけ」
妖精は不満そうに頬をふくらませた。
「ケチですねえ」
番人は淡々と言った。
「ケチじゃない。長く大きく育てるには漏れを小さくする必要がある」
RBは、その言葉で妙に落ち着いた。
さっきまでの焦りが、土に吸われていく感じがした。
数ヶ月後。RBは畑に通うのが習慣になった。
芽は少しずつ大きくなり、収穫カゴには果実が増えた。
RBは派手な喜び方をしない。
番人に教わった通り、ただ淡々と水をやる。
ある日、トレード通りから悲鳴が聞こえた。
「暴落だ!」
RBのスマホも赤く染まった。
RBは一瞬、心が揺れた。
走り出したくなった。
でも、肩に乗った妖精が小声で言った。
「今なら何回でも売買できますよ。いっぱい食べられますよ、私は」
RBは妖精を見た。
妖精は笑っている。いつも同じ笑顔だ。
RBはどうするか迷いつつ果実を一つ口に入れた。
酸っぱかった。少し怖かった。
でも飲み込めた。
「今日は水を多めにやろう」
RBがそう言うと、妖精はつまらなそうに飛んでいった。
トレード通りのほうがお腹いっぱいになるだろう。
RBは空を見上げた。
畑の空は派手じゃない。
でも、ちゃんと季節が進んでいた。
この話の教訓:値動きを当てる売買は、当たり外れに関係なく「手数料(漏れ)」が積み上がりやすい。リターンの源泉を企業の利益成長や配当に置き、分散と低コストで長く持てる形にすると、株式投資はギャンブル化しにくい。



