就活中に出会った素朴な疑問
RBが就職活動をしていた頃、同じグループワークの女の子がこんな発言をした。
「私、会社が潰れると景気が悪くなる理由がわからない」
ちょうどリーマン・ショックが起きた後だったからこの疑問をもつのはもっともだろう。そのときRBは次のように答えた。
「ツケで取引してるからじゃない?企業はお金を後で支払ってもらう慣習があるから、取引先が倒産するとそのお金が回収できなくなって金遣いが引き締まる。その厳しさが連鎖して景気が悪くなる」
女の子は納得したようだったが、RBは自分でも果たして本当にこの回答で正解なのか自信がなかった。リーマン・ブラザーズの事例で言えばサブプライムローン問題が騒がれていたので、掛け取引というだけの簡単な話ではないだろう。
正確な答えについて、ここで改めて整理しておきたい。
理由はもっと複合的だ
掛け取引の負の連鎖
正確に言えば、会社が潰れると景気が悪くなる理由は一つではない。掛け取引の連鎖は確かに重要だが、それは入口にすぎない。例えるならば、倒産は一社の死ではなく経済という血流にできる血栓である。血栓が小さければ局所の痛みで済むが、血栓が大きいと全身に血が流れなくなって体が冷える。
まず、RBが言ったツケの話から整理する。企業間取引では、現金払いよりも後払いが一般的である。売り手は商品やサービスを先に提供し、買い手は1か月後や2か月後に支払う。これが掛け取引だ。ここで取引先が倒産すると、売り手は売掛金を回収できない。すると何が起きるか。
売り手もまた、自分の仕入先への支払い、従業員の給与、家賃、税金を払わなければならないという事情を抱えているわけで、回収できない穴埋めのために現金が必要になる。結果として資金繰りが急激に厳しくなる。
この資金繰り悪化が怖いのは、倒産が「伝染」するからだ。取引先の倒産は、取引先の取引先の資金繰りも悪化させる。最初の倒産が小さくても、信用が薄い会社、資金の余裕がない会社から順に倒れていく。いわゆる連鎖倒産である。ここまでは掛け取引の話で説明できる。
しかし、景気悪化の本体はここからだ。
消費、投資、信用という3つのブレーキがかかる
倒産は単に金が回収できないという話にとどまらない。倒産が増えると、社会全体の行動が変わってしまうのだ。具体的には以下の三つのブレーキが同時に踏まれる。
第一のブレーキは消費である。会社が潰れれば失業が増える。失業しなかったとしても、人は周囲の倒産ニュースを見て将来の不安を抱き、財布の紐が固くなる。外食や旅行を控え、耐久財の買い替えを先延ばしにするだろう。すると企業は売上が落ちる。売上が落ちればさらに人件費を削る。こうして需要の縮小が自己増殖していく。
第二のブレーキは投資である。企業は設備投資や採用を控える。なぜなら先行きが読めないからだ。機械を買い、工場を増やし、人を増やすのは、将来の需要があると信じられるときだけである。倒産が増える局面では、需要の見通しが曇り、投資が止まる。投資が止まれば関連業界の受注も止まる。建設、機械、IT、広告、物流と波及先は広い。
第三のブレーキは信用である。ここが金融危機の核心になる。倒産が増えると、金融機関も貸し倒れが増える。すると銀行はリスクを嫌い、貸出基準を厳しくする。今まで借りられた企業がお金を借りられなくなる。これを信用収縮という。信用収縮が起きると、倒産しそうな会社だけが苦しくなるのではない。なんと健全な会社も資金調達が難しくなってしまう。資金が回らなくなれば、黒字倒産すら起きる。経済が冷えるとき、最後に効いてくるのは需要ではなく「資金の流れの詰まり」である。
リーマン・ショックでは信用のブレーキが踏まれた
リーマン・ショックが象徴的なのは、まさにこの信用のブレーキが世界規模で踏まれた点だ。
サブプライムローン問題は住宅ローンの話に見えるが、実際には証券化によって金融商品に姿を変え、銀行や投資家のバランスシートに広がっていた。
もはや何がどれだけ危ないのか分からない。分からないから誰も相手に貸さない。結果として短期資金市場が凍りつき、信用が止まり、実体経済まで冷えた。
まとめ
つまり、会社が潰れると景気が悪くなる理由は、次の連鎖で説明できる。
倒産が起きる
→ 売掛金が回収できず資金繰りが悪化する(連鎖倒産)
→ 失業と不安で消費が減る(需要の縮小)
→ 企業が投資と採用を止める(成長の停止)
→ 銀行が貸し渋り、信用収縮が起きる(資金の停止)
→ さらに倒産が増える
一見すると「会社が潰れるのは弱い会社が淘汰されるだけでは」と思うかもしれない。だが、景気の悪化は淘汰の速度が早すぎるときに起きる。構造改革はゆっくりなら痛みを吸収できるが、急激に起きると優良企業まで巻き込まれて倒産することがある。だから不況は単なる浄化ではなく、流動性と信用の危機として現れる。
今振り返れば、あのときのRBの回答は充分ではなかった。ツケの回収不能は確かに景気悪化のきっかけになる。ただし本当の核心は、倒産が信用を壊し、資金の流れを詰まらせ、人々と企業の行動を一斉に守りに変えてしまうことにある。



